六 一 此一流二刀と名付る事
原文
- `二刀
- `と云出す所武士は将卒共にぢきに二刀を腰に付る役也
- `昔は
- `太刀刀
- `と云今は
- `刀脇差
- `と云
- `武士たる者の此両腰を持事こまかに書顕すに及ばず
- `我朝に於てしるもしらぬも腰におぶ事武士の道也
- `此二つの利をしらしめん為に
- `二刀一流
- `と云也
- `槍長刀よりしては
- `外の物
- `と云て武道具の内也
- `一流の道初心の者に於て太刀刀両手に持て道を仕習ふ事実の所也
- `一命を捨る時は道具を残さず役に立たきもの也
- `道具を役に立てず腰に納めて死する事本意に有べからず
- `然共両手に物を持事左右共に自由には叶ひがたし
- `太刀を片手に取習せん為なり
- `槍 長刀 大道具は是非に及ばず刀脇差に於てはいづれも片手にて持道具也
- `太刀を両手にて持てあしき事
- `馬上にてあしし
- `かけ走る時あしし
- `沼 いけ 石原 さかしき道 人こみにあしし
- `左に弓槍を持其外何れの道具を持てもみな片手にて太刀をつかふものなれば両手に太刀を構ふる事実の道に非ず
- `若片手にて打ころしがたき時は両手にても打とむべし
- `手間の入る事にても有べからず
- `先片手にて太刀を振り習はん為に二刀として太刀を片手にて振覚ゆる道也
- `人毎に初てとる時は太刀おもくして振回しがたきものなれ共万初めてとり付時は弓も引がたし長刀も振りがたし
- `いづれも其道具道具になれては弓も力つよくなり太刀も振つけぬれば道の力を得て振よくなるなり
- `太刀の道と云事はやくふるに非ず
- `第二
- `水の巻
- `にて知るべし
- `太刀はひろき所にて振り脇差はせまき所にて振事先道の本意也
- `此一流に於て長きにても勝短かきにても勝
- `故によつて太刀の寸を定めず
- `何にても勝事を得る心一流の道也
- `太刀一ツ持たるよりも二ツ持てよき所大勢を一人して戦ふ時又とり籠り者などの時によき事有
- `箇様之儀今委しく書顕すに及ばず
- `一を以て万を知るべし
- `兵法の道行ひ得ては一ツも見えずと云事なし
- `能々吟味有べき也