七 一 兵法二ツの字の利を知事
原文
- `此道に於て太刀を振得たる者を
- `兵法者
- `と世に言伝へたり
- `武芸の道に至て弓を能く射れば
- `射手
- `と云鉄砲を得たる者は
- `鉄砲打
- `と云ふ
- `槍を遣ひ得ては
- `槍遣
- `と云ひ長刀を覚えては
- `長刀遣
- `と云ふ
- `然るに於ては太刀の道を覚えたる者を
- `太刀遣
- `脇差遣
- `といはん事也
- `弓 鉄砲 槍 長刀 皆是武家の道具なればいづれも兵法の道也
- `然共太刀よりして
- `兵法
- `と云事道理也
- `太刀の徳よりして世を納め身を納る事なれば太刀は兵法のおこる所也
- `太刀の徳を得ては一人して十人に勝事也
- `一人にして十人に勝なれば百人して千人に勝千人にして万人に勝
- `然るによつて我一流の兵法に一人も万人も同じ事にして武士の法を残らず
- `兵法
- `と云所也
- `道に於て儒者 仏者 数寄者 しつけ者 乱舞者此等の事は武士の道にはなし
- `其道に有らざると云ふ共道を広く知れば物事に出あふ事なり
- `何れも人間に於て我道我道を能みがく事肝要也