八 一 兵法に武具の利を知ると云事
原文
- `武道具の利をわきまふるに何れの道具にてもおりにふれ時にしたがひ出合もの也
- `脇差は座のせまき所敵の身ぎはへよりて其利多し
- `太刀は何れの所にても大形出合ふ利有り
- `長刀は戦場にては槍におとる心有
- `槍は先手なり
- `長刀は後手也
- `同じ位のまなびにしては槍は少し強く槍長刀も事によりつまりたる所にては其利少し
- `取籠り者などにも然るべからず
- `只戦場の道具なるべし
- `合戦の場にしては肝要の道具なり
- `され共座敷にての利をおぼへこまやかに思ひ実の道を忘るるに於ては出合がたるべし
- `弓は合戦の場にてかけひきにも出合槍わき其外物きは物きはにてはやく取合するものなれば野相の合戦などにとりわきよき物也
- `城攻など又敵相二十間をこえては不足なるもの也
- `当世に於ては弓は申に及ばず諸芸花多して実少なし
- `左様の芸能は肝要の時役に立がたし
- `鉄砲其利多し
- `城廓の内にしては鉄砲にしく事なし
- `野相などにても合戦のはじまらぬうちは其利多し
- `戦はじまりては不足なるべし
- `弓の一の徳は放つ矢人の目に見えてよし
- `鉄砲の玉は目に見えざる所不足也
- `此儀能々吟味有べき也
- `馬の事
- `つよくこたへてくせなき事肝要也
- `総て武道具につけ馬も大形にありき刀脇差も大形にきれ槍長刀も大形にとほり弓鉄砲もつよくそこねざる様に有べし
- `道具以下にもかたわけてすく事有べからず
- `あまりたる事はたらぬと同じ事也
- `人まねをせずとも我身に随ひ武道具は手にあふ様に有べし
- `将卒共に物にすき物を嫌ふ事悪し
- `工夫肝要也