一 兵法心持の事

原文

  1. `兵法の道に於て心の持様は常の心に替る事なかれ
  2. `常にも兵法の時にも少も替らずして心を広くにしてきつくひつぱらず少もたるまず心のかたよらぬ様に心をまん中におきて心を静にゆるがせて其ゆるぎのせつなもゆるぎやまぬ様に々吟味すべし
  3. `静なる時も心は静ならず何とはやき時も心は少もはやからず心は体につれず体は心につれず心に用心して身は用心せず心のたらぬ事なくして心を少もあやまらさずへの心はよわく共そこの心をつよく心を人に見分られざる様にして小身なるものは心に大きなる事を残らず知り大身なるものは心に小さき事を知りて大身も小身も心をにして我身のひいきをせざる様に心を持事肝要也
  4. `心の内にごらず広くして広き所へ智恵を置べき也
  5. `智恵も心もひたとみがく事専也
  6. `智恵をとぎ天下の非を弁へ物毎の善悪を知りの芸能其道其道をわたり世間の人に少しもだまされざる様にして後兵法の智恵となる心也
  7. `兵法の智恵に於てとりわきちがふ事有もの也
  8. `戦の場万事せはき時なれ共兵法の道理をきはめうごきなき心能々吟味すべし