三四 一 多敵の位の事

原文

  1. `多敵の位
  2. `と云ふは
  3. `一身にして大勢と戦ふ時の事也
  4. `我刀脇差をぬきて左右へひろく太刀を横にすてて構る也
  5. `敵は四方よりかかる共一方へおひまはす心也
  6. `敵かかる位前後を見分て先へ進む者に早くゆき合ひ大きに目を付て敵打出すくらゐを得て右の太刀も左の太刀も一度にふりちがへて行く太刀にて前の敵を切り戻る太刀にて脇に進む敵を切る心なり
  7. `太刀を振り違へて待事悪し
  8. `早く両脇の位に構へ敵の出たる所を強く切込みおつくづして其儘又敵の出たる方へかかりふりくづす心也
  9. `いかにもして敵をひとへにうをつなぎにおいなす心にしかけて敵のかさなると見えば其儘間をすかさず強くはらひこむべし
  10. `敵あひむ所ひたと追まはしぬればはかのゆきがたし
  1. `
  2. `敵の出るかた出るかた
  3. `と思へば待心有りてはかゆきがたし
  4. `敵の拍子をうけてくづるる所を知り勝事也
  5. `折々相手を余り多くよせ追込付て其心を得れば一人の敵も十二十の敵も心やすき事也
  6. `稽古して吟味有るべき也