三八 後書
原文
- `右書付る所一流の剣術大形此巻に記し置事也
- `兵法太刀を取て人に勝事を覚ゆるは先五ツの表を以て五方の構を知り太刀の道を覚えて惣体自由になり心のきき出て道の拍子を知りおのれと太刀も手さへて身も足も心の儘にほどけたる時に随ひ一人に勝ち二人に勝ち兵法の善悪を知る程になり此一書の内を一ケ条一ケ条と稽古して敵と戦ひ次第次第と道の利を得て不㆑断心に罹いそぐ心なくして折々手に触れては徳を覚え何れの人共打合其心を知つて千里の道も一足づつ運ぶなり
- `緩々と思ひ
- `此法を行ふ事武士の役也
- `と心得て
- `今日は昨日の我に勝ちあすは下手に勝ち後は上手に勝
- `と思ひ此書物の如くにして少しも脇の道へ心のゆかざる様に思ふべし
- `縦ひ何程の敵に打勝ても習ひに背く事に於ては実の道に有べからず
- `此利心にうかびては一身を以て数十人にも勝心の弁へ有べし
- `然る上は剣術の智力にて大分一分の兵法をも得道すべし
- `千日の稽古を
- `鍛
- `とし万日の稽古を
- `錬
- `とす
- `能々吟味有べきもの也
- `正保二年五月十三日 新免武蔵
- `寺尾孫之丞殿
- `寛文七年二月五日 寺尾夢世勝延 花押
- `山本源助殿