四 一 枕をおさふると云事
原文
- `枕をおさふる
- `とは
- `かしらをあげさせずと云ふ心也
- `兵法勝負の道に限つて人に我身をまはされてあとにつく事悪し
- `いかにもして敵を自由にまはし度事也
- `然るによつて敵も左様に思ひ我も其心あれ共人のする事をうけがはすしては叶がたく兵法に敵の打所をとめつく所をおさへくむ所をもぎはなしなどする事也
- `枕をおさふると云ふは我実の道を得て敵にかかりあふ時敵何事にても思ふきざしを敵のせぬ内に見知りて敵の
- `打
- `と云
- `うつ
- `の
- `う
- `の字のかしらをおさへて後をさせざる心枕をおさふる心也
- `たとへば敵の
- `かかる
- `と云
- `か
- `の字をおさへ
- `とぶ
- `と云
- `と
- `の字のかしらをおさへ
- `きる
- `と云
- `き
- `の字のかしらをおさふる
- `皆以て同じ心也
- `敵我にわざをなす事につけて役にたたざる事を敵にまかせ役にたつ事をばおさへて敵にさせぬ様にする所兵法の専也
- `是も敵のする事を
- `おさへんおさへん
- `とする心後手也
- `先我は何事にても道にまかせてわざをなす内に敵も
- `わざをせん
- `と思ふかしらをおさへて何事も役に立せず敵をこなす所是兵法の達者鍛錬の故也
- `枕をおさふる事能々吟味有べきなり