四 一 他流に短き太刀を用ゐる事
原文
- `短き太刀斗にて
- `勝ん
- `と思ふ所実の道に非ず
- `昔より
- `太刀
- `かたな
- `と云て
- `長き
- `と
- `短き
- `と云ふ事を顕し置也
- `世の中に強力なる者は大きなる太刀をもかろく振なればむりに短きを好む所にあらず
- `其故は長きを用て槍長太刀をも持物也
- `短き太刀を以て人の振太刀の透間を
- `きらん
- `飛いらん
- `つかまん
- `などと思ふ心かたつきて悪し
- `又すきまをねらふ所万事後手に見えもつると云心有て嫌事也
- `若は短かき物にて
- `敵へ入くまん
- `とらん
- `とする事大敵の中にて役に立ざる心也
- `短きにてし得たるものは
- `大勢をもきりはらはん
- `自由に飛ばん
- `くるはん
- `と思ふ共皆
- `うけ太刀
- `と云物になりてとりまぎるる心有て慥成道にてはなき事也
- `同くは我身は強く直にして人を追回し人に飛はねさせ人のうろめく様にしかけて慥に勝所を専とする道也
- `大分の兵法に於ても其理有
- `同じくは人数かさを以て敵を矢場にしほし即時にせめつぶす心兵法の専也
- `世の中人の物をしならふ事へいぜいもうけつかはしつぬけつくぐりつしならへば心道にひかされて人にまはさるる心有
- `兵法の道直にただしき所なれば正理を以て人を追回し人をしたがふる心肝要也
- `能く吟味有べし