一 序
現代語訳
- `兵法というものは武家の法である
- `将たる者はとりわけこの法を行い、兵卒たる者もこの道を知るべきことである
- `今、世の中に、兵法の道をしかと弁えているという武士がいない
- `まず、道を示顕しているのは、仏法として人を助ける道
- `また、儒道として文の道を正し、医者といって諸病を治す道
- `あるいは歌道者といって和歌の道を教え、あるいは数寄者、弓法者、その他諸芸・諸能までも、思い思いに稽古し、各々心を寄せるものである
- `兵法の道には心を寄せる人が稀である
- `まず、武士は
- `文武両道
- `といって、二つの道を嗜むこと、これ道である
- `たといこの道が不器用なりとも、武士たるものは各々の分際程度には兵法を勤めるべきものである
- `おおよそ武士の心を測るに
- `武士はただ
- `死ぬ
- `という道を嗜むこと
- `と認識している程度のものである
- `死する道においては武士ばかりに限らない
- `出家者でも、女でも、百姓以下に至るまで、義理を知り、恥を思い、死するべきを思い切ることにその差はないものである
- `武士が兵法を行う道は、何事においても他者より大いに優れるところを本とし、あるいは差しの斬り合いに勝ち、あるいは数人の戦に勝ち、主君のため、己の身のため、名を上げ身を立てようと思う、これ兵法の徳を以て成せるものである
- `また、世の中に
- `兵法の道を習っても実際のときの役には立つことなどない
- `と思う向きもあろう
- `その件においては、いつでも役に立つように稽古し、万事に至り役に立つように教えること、これ兵法の実の道である