三 一 兵法の道を大工に譬えた事
現代語訳
- `大将は大工の統領(棟梁)として天下の矩すなわち尺度を弁え、その国の矩を正し、その家の矩を知ることが統領の道である
- `大工の統領は、堂塔伽藍の墨矩を覚え、宮殿楼閣の指図を知り、人々を使い家々を建てること
- `大工の統領も武家の統領も同じことである
- `家を建てるのに木配りすなわち適材の適所への配置をすること
- `真っ直ぐにして節もなく見栄えの良いのを表側の柱とし、少し節があっても真っ直ぐで強いのを内側の柱とし、たといか弱くとも節のない木の格好がよいのを、敷居、鴨居、戸、障子とそれぞれに使い、節があっても歪んでいても、強い木をその家の強み強みを見分けて、よく吟味して使うにおいては、その家は長く崩壊しにくくなる
- `また、材木のうちにしても、節が多く歪んで弱いのを足場にでもし、後には薪などにできよう
- `統領が大工を使うこと
- `その上・中・下を知り、あるいは床まわり、あるいは戸、障子、あるいは敷居、鴨居、天井、以下腕に合わせてそれぞれに使って、下手には根太を張らせ、なお下手には楔を削らせ、人を見分けて使えば、それは捗が行って手際よいものである
- `捗が行き、手際よい、というのは
- `何事にも気を緩めぬこと
- `大勇を知ること
- `気すなわち気宇や気質などの上・中・下を知ること
- `勇みをつけるすなわち意欲を促すということ
- `無体すなわち無理や限界を知るということ
- `このような事々が統領の心持にあることをいう
- `兵法の利、かくの如し