一 兵法の道を大工に譬えた事

現代語訳

  1. `大将は大工の統領(棟梁)として天下のすなわち尺度を弁え、その国の矩を正し、その家の矩を知ることが統領の道である
  2. `大工の統領は、堂塔伽藍の墨矩を覚え、宮殿楼閣の指図を知り、人々を使い家々を建てること
  3. `大工の統領も武家の統領も同じことである
  4. `家を建てるのに木配りすなわち適材の適所への配置をすること
  5. `真っ直ぐにして節もなく見栄えの良いのを表側の柱とし、少し節があっても真っ直ぐで強いのを内側の柱とし、たといか弱くとも節のない木の格好がよいのを、敷居、鴨居、戸、障子とそれぞれに使い、節があっても歪んでいても、強い木をその家の強み強みを見分けて、よく吟味して使うにおいては、その家は長く崩壊しにくくなる
  6. `また、材木のうちにしても、節が多く歪んで弱いのを足場にでもし、後には薪などにできよう
  1. `統領が大工を使うこと
  2. `その上・中・下を知り、あるいは床まわり、あるいは戸、障子、あるいは敷居、鴨居、天井、以下腕に合わせてそれぞれに使って、下手には根太を張らせ、なお下手にはを削らせ、人を見分けて使えば、それはが行って手際よいものである
  3. `が行き、手際よい、というのは
  4. `何事にも気を緩めぬこと
  5. `大勇を知ること
  6. `すなわち気宇や気質などの上・中・下を知ること
  7. `勇みをつけるすなわち意欲を促すということ
  8. `無体すなわち無理や限界を知るということ
  9. `このような事々が統領の心持にあることをいう
  1. `兵法の利、かくの如し