三四 一 多敵の位の事
現代語訳
- `多敵の位
- `というのは
- `身一つにして大勢と戦うときのものである
- `己の刀と脇差を抜いて、左右へ広く太刀を横に放り出すように構えるのである
- `敵が四方からかかってきても一方へ追い回す手法である
- `敵がかかってくる形勢や前に出て来る敵・後から出て来る敵を見分けて、先に出て来る者に早く行き合い、大局に目を付けて、敵の打ち出す位置を捉えて、右の太刀も左の太刀も同時に振り違えて、行く太刀で前の敵を斬り、戻る太刀で脇に進む敵を斬る感覚である
- `太刀を振り違えて待つのはまずい
- `早く両脇の位置に構え、敵が出たところを強く切り込み、追い崩して、そのまままた敵の出た方へかかって振り崩す感覚である
- `どうにかして敵を一列に魚繋ぎにして追いやる感じで仕掛けて、敵が重なると見たら、そのまま間をすかさず、強く薙ぎ払いに突っ込むべし
- `敵との間合が詰まったところでただ追い回してしまっては捗が行き難い
- `また
- `敵の出る方、出る方
- `と思うと、待つ心が生じて捗行き難い
- `敵が拍子を受けて崩れるところを知って勝つことである
- `折々稽古相手を数多く寄せ集め、追い込みに慣れてその感覚を得れば一人の敵も十・二十の敵も心安いものである
- `よく稽古して吟味あるべきである