三 一 三つの先という事
現代語訳
- `三つの先
- `一つは、我が方から敵へかかる先
- `懸の先
- `という
- `また一つは
- `敵から我が方へかかるときの先
- `これは
- `待の先
- `という
- `また一つは、我もかかり、敵もかかり合うときの先
- `体々もしくは対々すなわち対等の先
- `という
- `これが三つの先である
- `いずれの戦い始めにもこの三つの先より他はない
- `先の次第を以て勝つことを得るものであるから、先というのは兵法の第一である
- `この先についての子細は様々あるといえども、その時の理を先とし、敵の心を見、我が兵法の知恵を以て勝つことであるから、こまやかに書き分けることはしない
- `第一、懸の先
- `己がかかろうと思うとき、静かにしていて、俄にはやくかかる先
- `うわべを強くはやくして、底を残す心の先
- `また、己の心を極力強くして、足は常の足より少しはやく、敵の脇へ寄ったら早く揉み立てるすなわち攻め立てる先
- `また、心を解き放って、初めも中も後も同様に敵をひしぐつもりで、底まで強い心で勝つ
- `これいずれも懸の先である
- `第二 待の先
- `敵が我が方へかかるとき、少しも構わず弱いように見せて、敵が近くなったところで
- `ずん
- `と強く離れて飛び付くように見せて、敵の弛みを見て、一気に強く勝つこと、これ一つの先である
- `また、敵がかかってくるとき、己もなお強くなって出るとき、敵のかかる拍子の変化する間を捉え、そのまま勝ちを得ること、これ待の先の理である
- `第三 体々の先
- `敵がはやくかかるときには、己は静かに強くかかり、敵近くなって
- `ずん
- `と思い切る体勢にして、敵のゆとりが見えたとき、一気に強くかかって勝つ
- `また、敵が静かにかかるときは、己の身を浮かし気味に少しはやくかかって、敵が近くなって、ひと揉み揉み合って、敵の様子にしたがって強くかかって勝つこと、これ体々もしくは対々の先である
- `この事柄はこまやかには言い分け難い
- `この書付を以て十分に工夫あるべし
- `この三つの先は、時に従い、理に従い、いつでもこちらからかかるものではないが、同じことならこちらからかかって敵を翻弄したいものである
- `いずれも先というものは兵法の知力を以て必ず勝つことを得る心であるから、よくよく鍛錬あるべし