五 一 とをこすという事
現代語訳
- `渡を越す
- `というのは
- `たとえば、海を渡る際
- `瀬戸すなわち流れの急な海の隘路
- `という所もあり、または四十里・五十里もある長い海を越す所を
- `渡
- `というのである
- `人間の世を渡るにも一代のうちには渡を越すという所は多いであろう
- `船路では、その渡の所を知り、船の性能を知り、日並を知って、伴船は出さずとも、そのときの状況を捉え、あるいは横風に頼り、あるいは追風をも受け、もし風が変わっても、二里・三里は艪を漕ぎ舵を握ってでも港に着くのだと心得て、船を操り、渡を越すのである
- `その心を得て、人の世を渡るにも一大事にかけて
- `渡を越す
- `と思う心を持つべし
- `兵法では、戦の中においても渡を越すことが肝要である
- `敵の力量を捉え、己の達者を自覚し、その兵法の理を以て渡を越すことは腕利きの船頭が海路を越すのと同じであり、渡を越して後はまた安心できるのである
- `渡を越すということは、敵に弱味を与え、己の身も優位になって、大方はや勝つところとなる
- `大小の兵法の上でも渡を越すという心が肝要である
- `よくよく吟味あるべし