二九 後書
現代語訳
- `右に書付けた内容は、我が流剣術の場にあって絶えず思い当たることのみ言い表し置くものである
- `今初めてこの利すなわち有効性や優位性を書き記すものであるから、後先と書き紛れる心があって、こまやかに言い分け難い
- `しかしながら、この道を学ぼうとする人にとっては心の標になるはずである
- `我は若年より以来、兵法の道に心がけて、剣術ひと通りのことにも手を涸らし身を涸らして鍛え、色々様々の心になり、他の流派をも調べてきたが、あるいは口で言い託け、あるいは小手先で細かなわざをして人目によさそうに見せているが、それらは一つも実の心ではない
- `もちろん、そのような流派の事を仕習っても、身体を利かせ習い、心を利かせ修めていることと思いはするが、みなそれらは道の病弊となって、後々までも失せ難くして、兵法の直道が世に朽ちて道の廃る根源なのである
- `剣術が実の道になって敵と戦い勝つこと、この法といささかも変わることがあってはならない
- `我が兵法の知力を得て真っ直ぐなところを行うにおいては、勝つことは疑いのないものである
- `正保二年五月十二日 新免武蔵
- `寺尾孫之丞殿
- `寛文七年二月五日 寺尾夢世勝延 花押
- `山本源介殿