二 一 他流に大きな太刀を持つ事
現代語訳
- `他流に大きな太刀を好む流派がある
- `我が流派の兵法からすれば、これを弱い流派と見立てるのである
- `そのわけであるが、他の兵法は、なんとしても人に勝つ、という理を知らずに、太刀の長いことを徳として、敵との間合の遠い所から勝とうと思うが故に長い太刀を好む心になるのであろう
- `世に言うところの
- `一寸手まさりすなわち一寸でも手の長い方が有利
- `といって、兵法を知らぬ者の沙汰である
- `したがって、兵法の利なくして長いことを以て遠くから勝とうとする、それは心が弱いせいであることから弱い兵法と見立てるのである
- `もし敵との間合が近く、組み合うほどのときは、太刀が長いほど、打つことも利かず、太刀の振れる範囲も狭く、太刀を荷物にしてしまい、小脇差や素手の人に劣るのである
- `長い太刀を好む身にしてみれば、それへの言い分もあろうが、それはその者一人の理である
- `世の中の実の道から見るときは、道理のないことである
- `長い太刀を持たずに短い太刀で戦えば、必ず負けるのではあるまいか
- `あるいはその場により上・下・脇などの窮屈な所、あるいは脇差ばかりの座においても、長いのを好む心は
- `兵法の疑い
- `といってまずい心である
- `人により、力の弱い者もあり、その身体により長い刀を差すことのできぬ者もある
- `昔から
- `大は小を兼ねる
- `と言うし、むやみに長いのを嫌うのではない
- `長いのに偏る心を嫌うというはなしである
- `大分の兵法にあっては、長太刀は大隊である
- `短いのは小隊である
- `小隊と大隊で合戦は成り立たぬのであろうか
- `小隊で大隊に勝った例は多い
- `我が流においては、そのように偏る狭い心を嫌うのである
- `よくよく吟味あるべし