六 一 他流に太刀の構えを用いる事
現代語訳
- `太刀の構えを専一にするのは僻事である
- `世の中で、構えのある場合とは、敵のないときのことであろう
- `その子細であるが、昔からの慣例・今の世の法などとして定まった法や例を立てることなど勝負の道にはあるべくもない
- `その相手に都合の悪いように企むものである
- `何事も構えというものは動揺せぬところを用いる心である
- `あるいは城を構える、あるいは陣を構える、などは、人に仕掛けられても強く動かぬ心、これ常のはなしである
- `兵法の勝負の道においては、何事も先手先手と心がけることである
- `構えるという心は先手を待つ心である
- `よくよく工夫あるべし
- `兵法の勝負の道は、人の構えを動かし、敵の心にない事を仕掛け、あるいは敵をうろめかせ、あるいはむかつかせ、またはおびやかし、敵の紛れるところの拍子の利を生かして勝つことであるから、構えという後手の心を嫌うのである
- `そうしたことから、我が兵法の道では
- `有構無構
- `といって
- `構えは有って構えは無き
- `と言うのである
- `大分の兵法でも、敵の隊の多少を覚え、その戦場の所を捉え、こちらの隊の形勢を知り、その徳すなわち優位性を得て、隊を立て、戦を始めること、それ合戦の専一である
- `人に先を仕掛けられた場合と、己が人に仕掛けるときではその徳は倍も変わる感じである
- `太刀をよく構え、敵の太刀をよく捉え、よく張ろうと意識するのは、槍や長太刀を持って柵越しに振っているに等しい
- `敵を打つときは、また柵木を抜いて槍や長太刀に使うくらいの心意気である
- `よくよく吟味あるべきことである