一〇 一 他流に奥表という事
現代語訳
- `兵法のことにおいて
- `いずれを
- `表
- `といい、いずれを
- `奥
- `というのか
- `芸によっては、事に触れて
- `極意
- `秘伝
- `などといって、奥義や入口があるが、敵と打ち合うときの理においては、表で戦い、奥を以て斬る、などということはない
- `我が兵法の教え方であるが、初めて道を学ぶ人には、そのわざの成し易いところをさせ習わせ、合点の早くゆく理を先に教え、理解の及び難いことを、その人が理解の糸口を掴める所を見分けて、次第次第に深い所の理を後に教えるようにしている
- `しかし、大抵はその事すなわち実践に対する様々を覚えさせるのであるから
- `奥
- `口
- `というのはないものである
- `さて世の中では、山の奥を尋ねる際
- `もっと奥へ行こう
- `と思えば、また口に出るものである
- `何事の道においても、奥の役立つところもあり、口を出してよいこともある
- `この戦の理において、何を隠して、何を表に出そうというのか
- `したがって、我は道を伝える際、誓紙や罰文を書くなどいうことを好まない
- `この道を学ぶ人の知力を窺い、真っ直ぐな道を教え、兵法の五道・六道の悪しき所を捨てさせ、おのずと武士の法の実の道に入り、疑いない心にすることが我が兵法の教えの道である
- `よくよく鍛錬あるべし