七一六六鶏合
原文
- `さるほどに判官八島の軍にうち勝つて周防の地へ押し渡り兄の三河守と一つになる
- `平家は長門国引島にぞ着くと聞えしかば源氏は同国の内追津に着くこそ不思議なれ
- `また紀伊国の住人熊野別当湛増は平家重恩の身なりしが忽ちに心変はりして
- `平家へや参らん源氏へや参らん
- `と思ひけるが田辺新熊野に七日参籠し御神楽を奏して権現に祈誓を致す
- `ただ白旗につけ
- `と御託宣ありしかどもなほ疑ひをなし参らせて白き鶏七つ赤き鶏七つこれを以て権現の御前にて勝負をせさせけるに赤き鶏一つも勝たず皆負けてぞ逃げにける
- `さてこそ源氏へ参らんと思ひ定めけれ
- `さるほどに一門の者共相催し都合その勢二千余人二百余艘の兵船に乗り継ぎて漕ぎ来たり
- `若王子の御正体を舟に乗せ参らせ旗の横紙には金剛童子を書き奉つて壇浦へ寄するを見て源氏も平家も共に拝し奉る
- `されどもこの舟源氏に付きければ平家興醒めてぞ見えられける
- `また伊予国の住人河野四郎通信も百五十艘の唐船に乗り連れて漕ぎ来たりこれも源氏と一つになりければ平家いとど興醒めてぞ思はれける
- `源氏の勢は重なれば平家の勢は落ちぞ行く
- `源氏の舟は三千艘唐船少々相交れり