四五五鼬沙汰
現代語訳
- `さて、後白河法皇は成親や俊寛らのように
- `遠い国の遥かな島に流されるのではないか
- `と心配なさりながら城南の離宮・鳥羽殿でお過ごしになって、今年は二年になった
- `同・五月十二日の昼頃、鳥羽殿にいたちがたくさん現れてあたりを駆け回った
- `法皇はおおいに驚かれ、自ら占われると、当時まだ鶴蔵人であった近江守・源仲兼を御前へ召して
- `この占文を持って安倍泰親のもとへ行き、しっかり判断させて勘状を受け取ってまいれ
- `と命じられた
- `仲兼はこれを賜って安倍泰親のもとへ行った
- `そのときは不在であった
- `白河というところへ
- `と言うので、そこへ尋ね行き、法皇からの用件を伝え、占文を手渡すと、泰親はすぐに勘状を渡した
- `仲兼はこれを預かって鳥羽殿へ駆け戻り、門から入ろうとしたが、警護の武士たちが許さない
- `鳥羽殿の内部は知っているので、築地を越え、大床の下を這って、切板から泰親の勘状をお渡しした
- `法皇がこれを開いてご覧になると
- `この三日のうちにお喜びとお嘆きがあります
- `という結果が記されてあった
- `法皇は
- `こんな状況下で喜ばしいことはありがたい
- `しかし、またどんな目に遭わされるのやら
- `と仰せになった
- `同・五月十三日、前右大将宗盛卿が、法皇についていろいろと言われたので、清盛入道もようやく思い直り、法皇を鳥羽殿から出されて都へお戻しし、八条烏丸の美福門院の御所へお入れした
- `いま三日以内の御喜び
- `と泰親が告げたのはこのことである
- `そんなところへ、熊野別当・湛増が飛脚を走らせて以仁王御謀反の由を都に伝えたので、前右大将宗盛卿は大騒ぎされ、福原の別邸にいらした清盛入道にこの由を伝えると、話も最後まで聞かないうちに、都へ駆けつけ
- `是非に及ばず
- `以仁王を捕らえて土佐の幡多へ流してしまえ
- `と言われた
- `責任者は大納言・三条実房、執行役は頭弁・藤原光雅であったという
- `係として大夫判官・源兼綱殿と出羽判官・源光長が承り、以仁王の御所へ向かった
- `この源兼綱というのは三位頼政入道の次男である
- `にもかかわらず、この人を加えているのは、謀反を以仁王にもちかけたのが頼政入道であることを平家はまだ知らなかったからである