八五九南都牒状
現代語訳
- `延暦寺の大衆がこの書状を見て
- `どういうつもりだ
- `当山の末寺でありながら、鳥の左右の翼のごとく、車の二つの輪にも似ているなどと、見下すような書き方をするるとはけしからん
- `と返信もしなかった
- `加えて清盛入道が天台座主・明雲大僧正に大衆を鎮めるように命じられたので、座主は急いで比叡山に登り、大衆を鎮められた
- `このような状況なので、以仁王にはまだ決まっていない由をお伝えした
- `また清盛入道の計略で、近江米を二万石、北国の織延絹を三千疋、手土産として延暦寺へ贈られた
- `これを谷々峰々の僧たちに引き出物として配られたが、急なことだったので、一人してたくさん取る者もあれば、ひとつも手に入れられない者もあった
- `何者の仕業か、こんな落書きがあった
- `山法師、織延絹が薄くして、恥も隠せぬありさまだった
- `また絹も手に入れられなかった宗徒が詠んだものか、このような落書きもあった
- `織延絹を、ひときれも得られぬ我らさえ、薄恥をかく者の数に入った
- `また、興福寺への書状には
- ``三井寺より、延暦寺の寺務所へ送る
- ``特に力を合わせて、当寺の破滅を助けていただきたいと乞う書状
- ``仏法が特に優れているのは王法を守るためであり、王法が長く続いているのは仏法によるものである
- ``ところが、入道前太政大臣・平朝臣清盛公・法名・浄海は国の威光をほしいままに私物化し、朝政を乱し、内に外に恨みや嘆きをもたらし、今月十五日の夜、後白河法皇の第二皇子・以仁王が不慮の災難から逃れるため、当寺にお入りになった
- ``それを院宣と称して、身柄引き渡しを要求し、責め立てるが、大衆は皆惜しんでいる
- ``そのため清盛入道は、兵を当寺に送り込もうとしている
- ``仏法も王法も今まさに破滅しようとしている
- ``昔、唐の皇帝・武宗が、軍兵をもって仏法を滅ぼそうとしたとき、五台山の大衆は合戦をしてこれを防いだ
- ``王の権力でもこのとおりである
- ``ましてや清盛入道のような謀反八逆の輩はなおさらである
- ``いったい誰が戒めるのか
- ``とりわけ奈良においては前例もないのに、罪なき長者関白・藤原基房殿を配流にされた
- ``この機を逃したら、いつ復讐できるというのか
- ``大衆の願いとして、内には仏法の破滅を救い、外には悪逆の一味を退けくことで、共に本懐を遂げられよう
- ``大衆はこう結論づけた
- ``よって書状も同様に記す
- ``治承四年五月十八日
- ``大衆等
- `と書き記した