二一七八大地震
現代語訳
- `さて、平家が滅んで源氏の世になると、国々は国司が治め、荘園は所有する公卿家に従うようになった
- `身分の上下なく皆安堵して暮らしはじめたときのこと、同・元暦二年七月九日の午の刻頃、大地がしばし激しく揺れた
- `京の中、白河周辺、六勝寺などすべて崩壊した
- `法勝寺の九重塔も上の六層が崩れ落ちた
- `得長寿院の三十三間の御堂は十七間まで倒れた
- `皇居をはじめあちらこちらの神社仏閣から貧しい民家まで軒並み崩壊した
- `崩れる音は雷のごとく、舞い上がる塵はまるで煙であった
- `天は暗くて日の光も見えず、老いも若きも肝を潰し、朝廷に仕える者たちや民衆は皆気を失わんばかりであった
- `また遠国・近国も同様であった
- `山が崩れて川を埋め、海は津波が押し寄せて浜を沈めた
- `渚を漕ぐ舟は波に揺られ、陸を行く馬は脚の立て所を失った
- `大地が裂けて水が湧き出し、岩盤は壊れて谷へ転ぶ
- `洪水がみなぎり迫ったら、高台に逃れても助からないだろう
- `猛火が迫ったら、川を隔ててもしばらくはしは逃げようがないだろう
- `鳥でもなければ空を飛ぶこともできず、龍でもなければ雲にも上れまい
- `ただ悲劇なのは大地震である
- `白河、京中、六波羅に埋もれる人たちは数え切れない
- `四大種の中で、水・火・風は常に害を与えるが、地だけは異変をもたらさない
- `今回こそはこの世の終わり、人々は皆遣戸や障子を立て、天が鳴り、地が揺れるたび、声々に念仏を唱え、おびただしくわめき叫んだ
- `八・九十、七・八十の者たちが
- `世が滅ぶということは世の習いではあるが、さすがに今日明日に起こるとは思わなかった
- `と言うと、童部たちはこれを聞いて大騒ぎした
- `後白河法皇は新熊野へ参詣され、花を供えられた
- `折しもこのような大地震があって、死者の穢れが出たので神事に障ってはいけないと、急いで御輿に乗られ、六条殿へお戻りになった
- `お供の公卿や殿上人は道すがら、どれほど心を痛めただろうか
- `法皇は南庭に仮屋を建てて、そこにおられた
- `後鳥羽天皇は鳳輦にお乗りになり、池の水際に行かれた
- `御所や内裏はみな崩壊してしまったので、承明門院・在子殿をはじめ宮々は御車に載られて別の場所にお移りになった
- `天文博士が急いで馳せ参じ
- `今夜亥・子の刻に必ず余震がありましょう
- `と告げるので、恐ろしいどころではない
- `昔、文徳天皇・斉衡三年三月八日の大地震では、東大寺の大仏の頭が落ちたという
- `また、天慶二年四月二日の大地震では、朱雀天皇は御所を去り、常寧殿の前に五丈の仮屋を建て、そこにおられたという
- `それは上代のことなので、まさかその後にこのようなことがあろうなどとは思わなかった
- `先の安徳天皇が都を出られ、身を海底に沈められ、大臣や公卿は囚われて京に帰ったり、首を刎ねられて市中を引き回されたりした
- `また、妻子と別れ流罪になった
- `平家の怨霊によってこの世が滅ぶのではないかと噂が流れ、心ある人は皆嘆き悲んだという