うたかた

現代語訳

  1. `ゆく川の流れは絶えることなく、しかも元の水にあらず
  2. `淀みに浮かぶ泡は、消えたかと思えば現れて、いつまでも同じ形でそこに留まることはない
  3. `世の中にいる人とその住まいもそれと同様である
  4. `玉を敷き詰めたがごとき都に棟を並べ軒を競う、身分の高いあるいは低い人々の住まいは、時代を経ても尽きせぬものだが、それを確かめてみれば、昔からあった家は稀であった
  5. `あるものは去年壊れて今年造られ、あるものは大きな家が衰えて小さな家となった
  6. `住む人もこれに等しい
  7. `所も変わらず、人も多いが、昔見た人は二・三十人の中にわずかに一人か二人である
  8. `朝に死に、夕べに生まれる世の習いは水の泡によく似ている
  9. `生まれては死ぬ、人はどこからやって来てどこへ去っていくのか、わからない
  10. `また、仮の宿りに過ぎぬ家を、誰のために苦労して建て、何のために飾るのか、それもわからない
  11. `その主人と住まいとが無常の定めを争い滅びゆくさまは、朝顔の花びらのごときである
  12. `ある時は露がこぼれて花が咲き残る
  13. `残るといえども朝日に枯れる
  14. `ある時は花が萎んでもなお露が残る
  15. `消えずといえども夕べを待たない