十二三より
原文
- `この年の比よりは早やうやう声も調子にかかり能も心づく比なれば次第次第に物数をも教ふべし
- `先づ童形なればなにとしたるも幽玄なり
- `声もたつ比なり
- `このたよりあればわるき事はかくれよき事はいよいよ花めけり
- `大方児の申楽にさのみにこまかなる物まねなどはせさすべからず
- `当座も似合はず能もあがらぬ相なり
- `但し堪能になりぬればなにとしたるもよかるべし
- `児といひ声といひしかも上手ならばなにかはわるかるべき
- `さりながらこの花はまことの花にはあらず
- `ただ時分の花なり
- `さればこの時分の稽古すべてすべてやすきなり
- `さるほどに一期の能の定めにはなるまじきなり
- `この比の稽古やすき所を花にあててわざをば大事にすべし
- `はたらきをもたしやかに音曲をも文字にさいさいとあたり舞をも手を定めて大事にして稽古すべし