二十四五
原文
- `この比一期の芸能の定まる初なり
- `さるほどに稽古の境なり
- `爰を三体の初とす
- `声も已になほり体も定まる時分なり
- `さればこの道に二つの果報あり
- `声と身なりなり
- `この二つはこの時分に定まるなり
- `年ざかりにむかふ芸能の生ずるところなり
- `さるほどによそ目にも
- `すは上手出来たり
- `とて人も目に立つるなり
- `本名人などなれども当座の花にめづらしくて立合勝負にも一旦勝つときは人も思ひあげ主も上手と思ひしむるなり
- `これ返々主の為仇なり
- `これもまことの花にはあらず
- `年のさかりと見る人の一旦の心のめづらしき花なり
- `まことの目利は見分くべし
- `この比の花こそ初心と申す比なるをきはめたるやうに主の思ひてはや申楽にそばみたる輪説をしいたりたる風体をすることあさましきことなり
- `たとひ人もほめ名人などに勝つとも
- `これは一旦のめづらしき花なり
- `と思ひさとりていよいよ物まねをもすぐにし定めなほ得たらん人に事をこまかにとひて稽古を弥ましにすべし
- `されば時分の花をまことの花と知る心が真実の花になほ遠ざかる心なり
- `ただ人ごとにこの時分の花に迷ひてやがて花の失するをも知らず
- `初心と申すはこの比の事なり
- `一 公案して思ふべし
- `わが位のほどをよくよく心得ぬればそれほどの花は一期失せず
- `位より上の上手と思へば本ありつる位の花も失するなり
- `よくよく心得べし