鬼
原文
- `これ殊更大和の物なり
- `一大事なり
- `凡そ怨霊憑物などの鬼はおもしろきたよりあればやすし
- `あひしらひを目がけてこまかに足手をつかひて物がしらを本にしてはたらけばおもしろきたよりあり
- `まことの冥途の鬼よく学べばおそろしきあひだおもしろき所更になし
- `まことはあまりの大事のわざなればこれをおもしろくする者稀なるか
- `先づ本意は強くおそろしかるべし
- `弱きとおそろしきはおもしろき心には変れり
- `抑鬼の物まね大なる大事あり
- `よくせんにつけておもしろかるまじき道理あり
- `おそろしき所本意なり
- `おそろしき心とおもしろきとは黒白のちがひなり
- `されば
- `鬼のおもしろき所あらん仕手はきはめたる上手
- `とも申すべきか
- `さりながら鬼神をよくせん者は殊更花を知らぬ仕手なるべし
- `されば若き仕手の鬼はよくしたりとは見ゆれどもおもしろからぬ理あり
- `鬼ばかりをよくせん者は鬼もおもしろかるまじき道理あるべきか
- `くはしく習ふべし
- `ただ鬼のおもしろからん嗜み巌に花の咲かんがごとし