三
原文
- `問
- `申楽の勝負の立合の手立は如何
- `答
- `これ肝要なり
- `先づ能数を持ちて敵人の能に変りたる風体をちがへてすべし
- `序
- `にいふ
- `歌道をすこし嗜め
- `とはこれなり
- `これ芸能の作者別なればいかなる上手も心のままにならず
- `自作なれば詞ふるまひ案のうちなり
- `されば能をせんほどの者の知才あらば申楽をつくらんことやすかるべし
- `これこの道の命なり
- `さればいかなる上手も能をもたざらん仕手は一騎当千ほどの人なりとも軍陣にて兵具の無からんこれ同じ
- `されば手柄のせいれい立合に見ゆべし
- `敵方色めきたる能をすればしづかに模様変りて詰所のある能をすべし
- `かやうに敵人の申楽に変へてすればいかに敵力の申楽よけれどもさのみには負くることなし
- `若し能よく出来れば勝つことは治定なるべし
- `然れば申楽の当座においても能に上中下の差別あるべし
- `本説正しくめづらしきか幽玄にておもしろき所あらんをよき能と申すべし
- `よき能をよくしたらんがしかも出来たらんを第一とすべし
- `能はそれほどになけれども本説のままに咎もなくよくしたらんが出来たらんを第二とすべし
- `能は似而非能なれども本説のわるき所を中々たよりにして骨を折りてよくしたるを第三とす