六
原文
- `問
- `能に位の差別を知る事如何
- `答
- `これ目利の眼にはやすく見ゆるなり
- `凡そ位のあがるとは能の重々の事なれどもふしぎに十ばかりの能者にもこの位おのれとあがれる風体あり
- `但し稽古なからむにはおのれとあがる位ありともいたづら事なり
- `先づ稽古の劫入りて位のあらむは常のことなり
- `また生得あがる位とは
- `長
- `なり
- `嵩
- `と申すは別の事なり
- `多く人長と嵩とを同じやうに思ふなり
- `嵩と申すはものものしくせのある形なり
- `またいふ
- `嵩は一切にわたる義なり
- `位長には別の物なり
- `たとへば生得幽玄なる所あるこれ上の位か
- `然れどもさらに幽玄にはなき仕手の長のあるもあり
- `これは幽玄ならぬ長なり
- `また初心の人思ふべし
- `稽古に上の位を心がけんは返々かなふまじ
- `位はいよいよかなはであまさへ稽古しける分もさがるべし
- `所詮位長のあがらんことはかくべつの心得ありて得ずしては大方かなふまじ
- `また稽古の劫入りて垢落ちぬればこの位おのれと出来ることあり
- `稽古とは音曲 舞 はたらき 物まね かやうの品々をきはむる形木なり
- `よくよく工夫して思ふに幽玄の位は生得の物か
- `闌けたる位は劫入りたるところか
- `心中に案をめぐらすべし