七
原文
- `問
- `文字にあたる風情
- `とは何事ぞや
- `答
- `これこまかなる稽古なり
- `能に諸のはたらきとなる初なり
- `体配身づかひと申すもこれなり
- `たとへばいひ事の文字にまかせて心を遣ふべし
- `見る
- `といふことには目をつかひ
- `さす
- `ひく
- `などいふには袖を少しさしひき
- `聞く
- `音する
- `などには心をよせあらゆる事にまかせて心をちちとつかふはおのづから振にも風情にもなるなり
- `第一 身をつかふこと
- `第二 手をつかふこと
- `第三 足をつかふことなり
- `節とかかりによりて身のふるまひを了簡すべし
- `これは筆に見えがたし
- `その時にいたりて見るまま習ふべし
- `この文字にあたる事を稽古しきはめぬれば音曲風体一心になるべし
- `所詮音曲風体一心になる位これまた得たる所なり
- `堪能
- `と申さんもこれなるべし
- `音曲と風体は二つの心なるを一心になるほど達者にきはめたらむは無上第一の上手なるべし
- `これまことに強き能なるべし
- `また強き弱き事多く人紛らかすものなり
- `能の品のなきをば
- `強き
- `と心得弱きをば
- `幽玄なり
- `と批判することあやまりなり
- `なにと見るも見弱りのせぬ仕手あるべし
- `これ強きなり
- `なにと見るも花やかなる仕手これ幽玄なり
- `さればこの文字にあたる道理をしきはめたらんは音曲風体一心になり強き 幽玄の境いづれもいづれもおのづからきはめたる仕手なるべし