八
原文
- `問
- `常の批判にも
- `萎れたる
- `と申すことあり
- `いかやうなるところぞや
- `答
- `これ殊に記すに及ばず
- `その風情あらはれまじ
- `さりながらまさしく萎れたる風体はあるものなり
- `これもただ花によりての風情なり
- `よくよく案じて見るに稽古にもふるまひにも及びがたし
- `花をきはめたらば知るべきか
- `さればあまねく物まねごとになしとも一方の花をきはめたらん人は萎れたる所をも知ることあるべし
- `然ればこの
- `萎れたる
- `と申すこと
- `花
- `よりもなほ上の事にも申しつべし
- `但し花なくては萎れ所無役なり
- `されば
- `湿りたる
- `になるべし
- `花の萎れたらんこそおもしろけれ
- `花咲かぬ草木の萎れたらんはなにかおもしろかるべき
- `されば花をきはめんこと一大事なるにそのうへとも申すべきことなれば萎れたる風体返々大事なり
- `さるほどに辞にも申しがたし
- `古歌にいふ
- `うすぎりのまがきの花の朝湿り 秋はゆふべと誰かいひけむ
- `かやうなる風体にてやあるべき
- `心中にあてて公案すべし