二
原文
- `一 こまかなる口伝にいはく
- `音曲 舞 はたらき 振 風情 これまた同じ心なり
- `これ
- `いつもの風情音曲なればさやうにぞあらんずらん
- `と人の思ひなれたるところをさのみに住せずして心根に同じ振ながらもとよりはかるがると風体を嗜みいつもの音曲なれどもなほ故実をめぐらして曲を彩り声色を嗜みてわが心にも
- `今ほどに執することなし
- `と大事にしてこのわざをすれば見聞く人
- `常よりもなほおもしろし
- `など批判にあふことあり
- `これは見聞く人の為めづらしき心にあらずや
- `然れば同じ音曲風情をするとも上手のしたらんは別におもしろかるべし
- `下手はもとよりならひおぼえつる節博士の分なればめづらしき思ひなし
- `上手と申すは同じ節かかりなれども曲を心得たり
- `曲といふは節のうへの花なり
- `同じ上手同じ花のうちにても無上の公案をきはめたらんはなほかつ花を知るべし
- `凡そ音曲にも節は定まれる形木 曲は上手の物なり
- `舞にも手は習へる形木 品かかりは上手の物なり