三
原文
- `一 物まねに似せぬ位あるべし
- `物まねきはめてその物にまことになり入りぬれば似せんと思ふ心なし
- `さるほどにおもしろき所ばかりを嗜めばなどか花なかるべき
- `たとへば老人の物まねならば得たらん上手の心にはただ素人の老人が風流延年なんどに身をかざりて舞ひかなでんがごとし
- `もとよりおのが身年寄ならば年寄に似せんと思ふ心あるべからず
- `ただそのときの物まねの人体ばかりをこそ嗜むべけれ
- `また老人の
- `花はありて年寄と見ゆる口伝
- `といふは先づ善悪老したる風情をば心にかけまじきなり
- `抑舞はたらきと申すはよろづに楽の拍手にあはせて足を踏み手をさしひき振風情を拍子にあててするものなり
- `年よりぬればその拍子のあて所 太鼓 謡 つづみの頭よりはちちと遅く足を踏み手をもさしひきおよその振風情をも拍子に少し後るるやうにあるものなり
- `この故実なによりも年寄の形木なり
- `このあてがひばかりを心中にもちてその外をばただ世の常にいかにもいかにも花やかにすべし
- `先づ仮令年寄の心には何事をも若くしたがるものなり
- `さりながら力なく五体も重く耳も遅ければ心はゆけどもふるまひのかなはぬなり
- `この理を知ることまことの物まねなり
- `わざをば年寄の望のごとく若き風情をすべし
- `これ年寄の若き事をうらやむ心風情を学ぶにてはなしや
- `年寄はいかに若ふるまひをするともこの拍手におくるることは力なくかなはぬ理なり
- `年寄の若ふるまひめづらしき理なり
- `老木に花の咲かんがごとし