八
原文
- `一 抑因果とてよきあしき時のあるも公案を尽して見るにただめづらしきめづらしからぬの二つなり
- `おなじ上手にておなじ能を昨日今日見れども
- `おもしろや
- `と見えつる事の今またおもしろくもなき時のあるは昨日おもしろかりつる心ならひに今日はめづらしからぬによりて
- `わるし
- `と見るなり
- `その後またよき時のあるは先に
- `わるかりつるものを
- `と思ふ心まためづらしきに還りておもしろくなるなり
- `さればこの道をきはめをはりて見れば花とて別にはなきものなり
- `奥義をきはめてよろづにめづらしき理をわれと知るならでは花はあるべからず
- `経にいはく
- `善悪不二邪正一如
- `とあり
- `本来より
- `よきあしき
- `とは何をもて定むべきや
- `ただ時によりて用足る物をば
- `よき物
- `とし用足らぬを
- `あしき物
- `とす
- `この風体の品々も当世の衆人諸所にわたりてその時のあまねき好みによりて取出す風体これ用足る為の花なるべし
- `ここにこの風体をもてあそめばかしこにまた余の風体を賞翫す
- `これ人々心々の花なり
- `いづれをまこととせんや
- `ただ時に用ゆるをもて花と知るべし