総説
現代語訳
- `物真似の品々は筆に尽し難い
- `しかし、この道の肝要であるからその品々をいかにしても嗜む必要がある
- `およそ何事も残さずよく似せるのが本意である
- `そうした中においても、時と場合に応じて演技の濃淡を知る必要がある
- `まず国王・大臣より始め奉り、公家の御挙措や武家の御進退については我々のような分限の及ぶところではないため充分にというわけにはいかない
- `それでも、入念に言葉を探り、身のこなしを求めて、観覧者の御意見を仰ぐべきものである
- `その他、高位の方々の立居振舞や花鳥風月に因む様式も微に入り細を穿って似せるようにせよ
- `農夫や田舎者の事にいたってはあまり細かく賤しげなわざを似せぬこと
- `しかし、例えば、樵夫、草刈、炭焼、塩汲など風情になりそうなわざならば事細かに似せるのも悪くあるまい
- `それよりさらに諄い卑賤の職はむやみに似せてはならない
- `これは高位の方々の御目にかけぬこと
- `もし御覧に入れるとなれば、あまりに賤しくて、面白いところなどあろうはずもない
- `この按配をよくよく心得るがよい
- `似事というのはその人体すなわち風姿に応じた浅深濃淡を要するものである