三
現代語訳
- `問
- `申楽(猿楽)の勝負の立合の手立はどのようにすべきか
- `答
- `これは肝要である
- `まず、演目の数を豊富に持って敵人の能とは異なる風体を手法を違えて演ずること
- `本書の序
- `で述べた
- `歌道を少し嗜め
- `とはこれである
- `さて、芸能の作者が別の場合、いかなる上手も意のままにならない
- `自作ならば、台詞も振舞も案の内である
- `また、能を演じられるほどの者で雅文や和歌などの才能があるならば申楽(猿楽)を作るのに造作もあるまい
- `この才覚はこの道における命である
- `ゆえに、いかなる上手とて己の能を持たぬ仕手は一騎当千ほどの人であろうとも軍陣に兵具がないに等しい
- `したがって、手並のせいれい(不明)は立合に見ることができよう
- `敵方が色めいた能を演じたときは閑かな雰囲気に変えて山場のある魅せる能をすること
- `このように敵人の申楽(猿楽)とは趣を変えてすればいかに相手の申楽(猿楽)がよくともおいそれと負けることはない
- `もし能がよく出来れば勝つことは必定であろう
- `また申楽(猿楽)の実演においても、能に上・中・下の差があろう
- `典拠が正しく珍しいものか幽玄で面白い場面のあるものをよい能という
- `よい能をよく演じてしかもよく出来たものを第一とすること
- `能はそれほどでもないが典拠に忠実で失敗もなくよく演じて出来たものを第二とすること
- `能は似非能すなわち取るに足りぬ能であるが典拠のまずいところを逆に手がかりとして試行錯誤の上でよく演じたものを第三とする