九
現代語訳
- `問
- `能において花を知ること
- `この稽古及び物学の条々を見ると、無上第一の要件である
- `肝要である
- `またまたわからない
- `これをどう心得ればよいのか
- `答
- `この道の奥義をきわめるところといえよう
- `一大事というのも、秘事というのも、花を知る、ただこの一道である
- `まず、大方は風姿花伝 第一の年来稽古条々 第二の物学条々に詳しく記されている
- `仮初の花
- `声の花
- `若い時分の幽玄の花
- `これらの条々は、人の目にも見えるが、そのわざより生ずる花であるために、本物の咲く花の如くであるために、またやがて散りゆく時がある
- `ゆえに存えることはなく、世の名望も少ない
- `しかし、真の花は、咲く道理も、散る道理も、人の心次第であろう
- `よって、存えもしよう
- `この理を知るにはいかにすべきか
- `この件は別紙の口伝にあるかと思う
- `ただ、煩わしいものであると心得てはならない
- `まず、七歳から始めて年来稽古の条々や物真似の品々をよくよく心の中で理解し覚え、芸を尽し工夫をきわめて後、この花の失せぬ境地を知るに至る
- `この芸の数々をきわめる心がすなわち花の種であろう
- `したがって
- `花を知ろう
- `と思うならばまず種を知る必要がある
- `花は心
- `種はわざ
- `であろう
- `古人すなわち六祖壇経における唐の慧能禅師の偈に曰く
- `心地含諸種(心地は諸の種を含み)
- `普雨悉皆萌(普き雨に悉く皆萌す)
- `頓悟花情已(頓に花の情を悟り已れば)
- `菩提果自成(菩提の果、自ら成ず)