一〇 殺生岩・遊行柳
現代語訳
- `ここ黒羽から殺生石へ向かった
- `城代家老に馬で送ってもらう
- `この馬の口取の男が
- `句を詠んだ短冊をください
- `と頼んできた
- `風流なことを望むものだ
- `と思い、
- `野を横に 馬牽き向けよ ほととぎす
- `殺生石は温泉の出る山の裏手にあった
- `石の毒気はいまだ衰えず、蜂や蝶の類が砂の色が見えなくなるほど重なって死んでいた
- `また、西行法師の詠んだ
- `道の辺に 清水流るる 柳陰 暫しとてこそ 立ち止まりつれ
- `の柳は、那須の蘆野の里にあって、田の畔に残る
- `この地の領主・戸部某が、
- `その柳をお見せしたい
- `など折々仰っていらしたのを、
- `どのあたりだろうか
- `と思っていたが、今日この柳の陰に立ち寄ることができた
- `田一枚 植えて立ち去る 柳かな