一二 須賀川

現代語訳

  1. `そうこうして、白河の関を越え行くままに阿武隈川を渡った
  2. `左には会津磐梯山が聳え、右には磐城相馬三春地方
  3. `背後には常陸国・下野国の地を隔てるように山が連なっている
  4. `蜃気楼が現れると言われる影沼という所を通ったが、今日は空が曇って物影は映らなかった
  1. `奥州街道第三十七番目の須賀川宿で相良等躬という俳人を訪ねて、四・五日引き止められた
  2. `まず、
  3. `白河の関を越えるとき、どんな句を詠みましたか
  4. `と問う
  5. `長途の苦しみで心身疲れながらも、一方では風景に心を奪われ、古への追懐にとても切なくなって、うまく思いを巡らすことができませんでした
  6. `風流の 初めや奥の 田植歌
  7. `何も読まずにはさすがに越えられなくて
  8. `と語れば、これを発句に、脇、第三、と続けて三巻の連句を作った
  1. `この宿場の傍らに、大きな栗の木陰を利用して庵を結んだ遁世の僧がいる
  2. `西行法師の詠んだ山深み 岩にるる 水溜めん かつがつ落つる 拾ふほど拾う深山もこうであったか
  3. `と静かに思われて、こう書き留めた
  4. `その言葉、
  5. `
  6. `という文字は、
  7. `西の木
  8. `と書いて西方浄土に縁あり
  9. `と、法然上人は生涯、杖にも柱にもこの木を用いられたそうな
  10. `世の人の 見つけぬ花や 軒の栗