二三 松島
現代語訳
- `日は既に正午に近い
- `船を借りて松島に渡る
- `その距離、二里余り、源重之の歌松島や 雄島の磯に 漁りせし 海人の袖こそ かくは濡れしかなどに詠まれた雄島の磯に着いた
- `そもそも、瑞巌寺の梵鐘に刻まれてもいるなど、言い古されたことだが、松島は日本第一の好風景であり、およそ清国の洞庭湖や西湖にも劣らない
- `孟浩然は洞庭湖を臨んで八月湖水平なり 虚を涵して太清に混ず 気は蒸す雲夢沢 波は撼がす岳陽城 済らんと欲するに舟楫無し 端居聖明に恥ず 座に釣を垂るる者を観て 徒に魚を羨むの情ありと詠んだが、この、東南より海水の流れ込む入江の中は三里、清国の浙江のように潮流を湛える
- `入江に浮かぶ島々は数限りなく、峙つものは天を指し、臥すものは波に腹ばう
- `あるものは二つに重なり三つに折り重なって、左に分かれ右に連なる
- `負ぶさるものあり、抱けるものあり
- `子孫を愛する姿に似ている
- `松の緑は濃やかで、枝葉は潮風に吹き弛められて、幹の形や枝振りはまるで人の手によるものであるかに見える
- `蘇軾は、越国の美女・西施を引き合いに、西湖を水光瀲灧として晴れて方に好く、山色空濛として雨も亦奇なり 西湖を把て西子と比せんと欲すれば、淡粧濃抹総て相宜しと詠んだが、眼前に広がるこの景色も、深い憂えを湛えて、化粧を施した美人の顔のようである
- `神代の昔の、大山祗神の成せる業であろうか
- `万物を創造する神の業を、誰が筆を振るい言葉を尽くせようか
- `雄島が磯は、陸と地続きで海に突き出た島である
- `私が参禅していた仏頂禅師の師・雲居禅師の別室の跡や座禅石などがある
- `また、松の木陰に松吟庵とかいう遁世者も時折現れ、落穂や松笠など焚く煙が上る侘しい庵に静かに住んでいて、何者とも知れないながらも、心惹かれて立ち寄ってみれば、月が海に映って、昼の眺めとはまた異なる景色があった
- `入江のほとりに帰って宿をとり、窓を開けて二階から見れば、風雲の中に旅寝をするかのようで、妖しいまでに不思議な心地になった
- `松島や 鶴に身を借れ ほととぎす
- `曾良
- `私は、口を閉ざして句は一切詠まずに眠ろうとしたが、寝つけない
- `江戸の庵を出発する時、山口素堂が夏初の松島自ら清幽 雲外の杜鵑声未だ同じからず 眺望心を洗う都て水に似たり 憐れむ可し蒼翠の青眸に対するをという松島の漢詩を作ってくれた
- `原安適は松が浦島の和歌を餞別にくれた
- `袋を解いて、今宵の友とした
- `また、杉山杉風と中川濁子の発句もあった