二九 最上川
現代語訳
- `近衛家実の歌最上河 水かさまさりて 五月雨の しばしばかりも 晴れぬ空かななどに詠まれた最上川の舟に乗ろうと尾花沢の西一里ほどの大石田という所で日和を待つ
- `ここには、貞享年間に俳人・大淀三千風が訪れたことによって古い俳諧の種がこぼれ、それが根付いて今花を咲かせ、蘆笛を吹くがごとき田舎者の句作ながらも人々はそれで心を和ませているのですが、俳諧の道を探りつつも、新風・古風どちらの道を行くべきか迷い踏み留まっているところでして、導いてくれる人がいないのです
- `と人が言うので、やむなく俳諧を一巻残した
- `このたび、蕉風はここにまで至った
- `最上川は米沢を源流として山形を水上とする
- `碁点や隼などという恐ろしい難所がある
- `板敷山の北を流れて、最後は酒田の海に注ぐ
- `左右は山が覆い、茂みの中に舟を下ろす
- `これに稲を積んだものを、東歌の最上河 上れば下る 稲舟の 否にはあらず この月ばかりなどに詠まれるように、
- `稲舟
- `というようである
- `白糸の滝は青葉の隙々に落ち、義経の従者・常陸坊海尊を祀る外川神社の仙人堂は岸に臨んで建っている
- `水は漲って、舟は危なっかしい
- `五月雨を 集めて早し 最上川