三九 山中
現代語訳
- `温泉につかる
- `その効果は摂津国の有馬温泉に次ぐという
- `山中や 菊は手折らぬ 湯の匂い
- `ここの主人は久米之助といって、まだ十四歳の少年である
- `彼の父・泉屋又兵衛は俳号を武矩といって誹諧を好み、京の安原貞室が若い時分、ここに来ていた頃に、俳諧の未熟さを辱められて、京へ帰って松永貞徳の門人となり、世に知られるようになった
- `名を成した後、この村だけからは句の添削料を取らなかったという
- `もう昔の話となってしまった
- `曾良は腹を病んで、伊勢国の長島という所に親類がいるので先に発つことになったが、西行法師のいづくにか 眠り眠りて 倒れ伏さんと 思ふ悲しき 道芝の露という歌になぞらえてか、文選の『古詩十九首』に載る名も無き人の詩の行き行きて重ねて行き行くという一節になぞらえてか、
- `行き行きて 倒れ伏すとも 萩の原
- `曾良
- `と書き残した
- `行く者の悲しみ、残る者の無念さは、前漢書の『蘇武の武陵に別れる詩』に双鳧倶に北に飛び、一鳧独り南に翔るとあるが、まさに、一羽の鳧が離れ離れになって雲に迷うがごとしである
- `私もまた、
- `今日よりや 書付消さん 笠の露