四三 敦賀
現代語訳
- `次第に白山が隠れ、日野山が現れてきた
- `飯尾宗祇の歌あさむづの 橋は忍びて 渡れども とどろとどろと 鳴るぞわびしきなどに詠まれた浅水の橋を渡って、杉山重行の歌夏かりの 玉江の蘆を ふみしだき むれ居る鳥の たつ空ぞなきなどに詠まれた玉江の蘆は穂がすっかり出ていた
- `飯尾宗祇の歌鶯の 啼きつる声に しきられて 行きもやられぬ 関の原かななどに詠まれた鴬の関を過ぎて湯尾峠を越えると、源平合戦で木曾義仲軍と平維盛軍が衝突した燧ヶ城、性助入道親王の歌立ちわたる 霞へだてて 帰る山 来てもとまらぬ 春のかりがねなどに詠まれた帰山に初雁の声を聞きながら、十四日の夕暮れ、敦賀の津に宿をとった
- `その夜、月は殊に晴れていた
- `明日の夜もこうでしょうか
- `と言うと、
- `北陸路のことですから、明日の夜が曇るか晴れるかは予測がつきません
- `と、主人に酒を勧められて、越前国一の宮・気比神宮に夜参詣した
- `日本武尊の皇子で神功皇后の夫の第十四代仲哀天皇の御廟である
- `境内は神々しく、松の梢の間から月の光が漏れ、御前の白砂が霜を敷いたように見える
- `その昔、時宗の遊行二世・他阿上人が大願を思い立たれ、自ら草を刈り、土石を背負い、ぬかるみを補修なさったので、参詣の往来に不自由しなくなりました
- `この先例は現在も絶えることなく、歴代の上人が神前に真砂をお運びになるのです
- `これを
- `遊行の砂持
- `と言います
- `と、主人が語った
- `月清し 遊行の持てる 砂の上
- `十五日、主人の言葉に違わず、雨が降る
- `名月や 北国日和 定めなき
- `十六日、空が晴れたので、西行法師が夕染むる ますほの小貝 拾ふとて 色の浜とは いふにやあるらんと詠んだますほの小貝を拾おうと、種の浜に舟を出す
- `そこまで海は七里ある
- `敦賀の廻船問屋・天屋五郎右衛門とかいう者が白木の弁当箱や竹筒などこまごまと酒食を用意し、下部を大勢舟に乗せてくれた上、源氏物語の『須磨』の追風さえ添ひてかの浦に着き給ひぬという表現さながら、追風に押されて早々と到着した
- `源氏物語 須磨の大江殿と言ひける所はいたう荒れて松ばかりぞしるしなるという表現さながら、浜は僅かな漁夫の小家と、侘しい法華寺があるばかりである
- `源氏物語 須磨の浦波夜々はげにいと近く聞こえてまたなくあはれなるものはかかる所の秋なりけりとばかりに、ここで茶を飲み、酒を燗して、夕暮れの寂寥を深く感じていた
- `寂しさや 須磨に勝ちたる 浜の秋
- `波の間や 小貝に混じる 萩の塵
- `その日の出来事は洞哉に筆をとらせて寺に残した