三三 山の霊異、花
原文
- `白望の山に行きて泊れば、深夜にあたりの薄明るくなることあり
- `秋の頃茸を採りに行き山中に宿する者、よく此事に逢ふ
- `又谷のあなたにて大木を伐り倒す音、歌の声など聞ゆることあり
- `此山の大きさは測るべからず
- `五月に萱を刈りに行くとき、遠く望めば桐の花の咲き満ちたる山あり
- `恰も紫の雲のたなびけるが如し
- `されども終に其あたりに近づくこと能はず
- `曾て茸を採りに入りし者あり
- `白望の山奥にて金の樋と金の杓とを見たり
- `持ち帰らんとするに極めて重く、鎌にて片端を削り取らんとしたれどそれもかなはず
- `又来ん
- `と思ひて樹の皮を白くし栞としたりしが、次の日人々と共に行きて之を求めたれど、終に其木のありかをも見出し得ずしてやみたり