三三山の霊異、花

原文

  1. `白望の山に行きて泊れば、深夜にあたりの薄明るくなることあり
  2. `秋の頃茸を採りに行き山中に宿する者、よく此事に逢ふ
  3. `又谷のあなたにて大木を伐り倒す音、歌の声など聞ゆることあり
  4. `此山の大きさは測るべからず
  5. `五月に萱を刈りに行くとき、遠く望めば桐の花の咲き満ちたる山あり
  6. `も紫の雲のたなびけるが如し
  7. `されどもに其あたりに近づくことはず
  1. `て茸を採りに入りし者あり
  2. `白望の山奥にて金のと金の杓とを見たり
  3. `持ち帰らんとするに極めて重く、鎌にて片端を削り取らんとしたれどそれもかなはず
  4. `
  5. `と思ひて樹の皮を白くし栞としたりしが、次の日人々と共に行きて之を求めたれど、に其木のありかをも見出し得ずしてやみたり