原文 `小友村の旧家の主人にて今も生存せる某爺と云ふ人、町より帰りに頻に御犬の吠ゆるを聞きて、酒に酔ひたればおのれも亦其声をまねたりしに、狼も吠えながら跡より来るやうなり `恐ろしくなりて急ぎ家に帰り入り、門の戸を堅く鎖して打潜みたれども、夜通し狼の家をめぐりて吠ゆる声やまず `夜明けて見れば、馬屋の土台の下を掘り穿ちて中に入り、馬の七頭ありしを悉く食ひ殺してゐたり `此家はその頃より産稍傾きたりとのことなり