原文
- `ある年の秋飯豊村の者ども萱を刈るとて、岩穴の中より狼の子三匹を見出し、その二つを殺し一つを持ち帰りしに、その日より狼の飯豊衆の馬を襲ふことやまず
- `外の村々の人馬には聊かも害をなさず
- `飯豊衆相談して狼狩を為す
- `其中には相撲を取り平生力自慢の者あり
- `さて野に出でて見るに、雄の狼は遠くにをりて来らず
- `雌狼一つ鉄と云ふ男に飛び掛りたるを、ワツポロ一を脱ぎて腕に巻き、矢庭に其狼の口の中に突込みしに、狼之を噛む
- `猶強く突き入れながら人を喚ぶに、誰も誰も怖れて近よらず
- `其間に鉄の腕は狼の腹まで入り、狼は苦しまぎれに鉄の腕骨を噛み砕きたり
- `狼は其場にて死したれども、鉄も担がれて帰り程なく死したり