原文 `一昨年の遠野新聞にも此記事を載せたり `上郷村の熊と云ふ男、友人と共に雪の日に六角牛に狩に行き谷深く入りしに、熊の足跡を見出でたれば、手分して其跡を覓め、自分は峰の方を行きしに、とある岩の陰より大なる熊此方を見る `矢頃あまりに近かりしかば、銃をすてて熊に抱へ付き雪の上を転びて谷へ下る `連の男之を救はんと思へども力及ばず `やがて谷川に落入りて、人の熊下になり水に沈みたりしかば、その隙に獣の熊を打取りぬ `水にも溺れず、爪の傷は数ケ所受けたれども命に障ることはなかりき