原文 `仙人峠は登り十五里一降り十五里あり `其中程に仙人の像を祀りたる堂あり `此堂の壁には旅人がこの山中にて遭ひたる不思議の出来事を書き識すこと昔よりの習なり `例へば、 `我は越後の者なるが、何月何日の夜、この山路にて若き女の髪を垂れたるに逢へり `こちらを見てにこと笑ひたり `と云ふ類なり `又此所にて猿に悪戯をせられたりとか、三人の盗賊に逢へりと云ふやうなる事をも記せり