現代語訳
- `遠野郷では、豪農のことを今でも長者と呼ぶ
- `青笹村大字糠前一の長者の娘がふと物に取り隠されて年久しくなった頃、同じ村の何某という猟師が、ある日山に入ったとき、ひとりの女に遇った
- `怖ろしくなってこれを撃とうとすると、
- `あれっ、叔父さんではないか、撃つな
- `と言った
- `驚いてよく見れば、かの長者の愛娘であった
- `どうしてこんな所にいるんだ
- `と問えば、
- `ある物に攫われて、今はその妻となった
- `子もたくさん産んだけれど、みんな夫が食い尽くして、ひとりこうしている
- `私はこの地で一生涯を送ることになると思う
- `人にも言うな
- `あなたの身も危ういから、すぐ帰れ
- `との言葉のままに、その場所も問い明らかにせず逃げ帰ったという