八九山の神

現代語訳

  1. `山口から柏崎へ行くには、愛宕山の裾を回る
  2. `田んぼに続く松林で、柏崎の人家が見えるあたりから雑木林になる
  3. `愛宕山の頂上には小さな祠があって、参道は林の中にある
  4. `登口に鳥居が立ち、二・三十本の杉の古木がある
  5. `その傍らには、また一宇のがらんとした堂がある
  6. `堂の前には
  7. `山神
  8. `の字を刻んだ石塔が立っている
  9. `昔から山の神が出ると言い伝えられている所である
  1. `和野の何某という若者、柏崎に用事があって、夕方堂のあたりを通ったところ、愛宕山の上から降りてくる背の高い人があった
  2. `誰だろうと思い、林の樹木越しにその人の顔の部分を目がけて歩み寄ると、道の角ではたと行き合った
  3. `先方は思いがけなかったのか、大いに驚いて、こちらを見た顔は非常に赤く眼は輝き、そしていかにも驚いた顔であった
  4. `山の神だと知って後も見ずに柏崎の村に走り着いた

注釈

`遠野郷には山神の塔が多く立っている。その場所は、かつて山神に遭い、または山神の祟りを受けた場所で、神をなだめるために建てたる石である