序
現代語訳
- ``羅貫中は水滸伝を記して
- ``子孫三代唖児が生まれ
- ``紫式部は源氏物語を著して
- ``一度地獄に落ちたという
- ``これは偽りを真実として書いた業が己が身に及んだためである
- ``しかしながらその文を読んでみれば
- ``それぞれ興奮するほどにおもしろく
- ``鳥がさえずり静まるがごときめりはりは真に迫って
- ``抑揚も転がるようで
- ``読者に共鳴を与える
- ``太古の事実を目の当たりにするがごとしである
- ``私はちょうど、いま語るにふさわしい閑話を持っている
- ``語りたいままに語ってみたい
- ``それは雉が鳴き龍が戦うがごとき話である
- ``自分でも杜撰であることは認める
- ``よって本書を読む者も
- ``実話として読んではならない
- ``創作を私が書いたとして、どうして報いを受けて兎唇・獅子鼻の子孫が生まれることがあろう
- ``明和五年の晩春
- ``雨晴れて月がおぼろにかすむ夜
- ``窓の下にて編成し
- ``これを書肆に託して
- ``雨月物語と題した
- ``剪枝畸人ここに記す