一一四三藤六の事

原文

  1. `今は昔藤六といふ歌詠みありけり
  2. `下種の家に入りて人もなかりける折を見付けて入りにけり
  3. `鍋にある物をひけるほどに家主人の女水を汲みて大路の方より来て見ればかくひ食へば
  4. `いかにかく人もなき所に入りてかくはする物をば参るぞ
  5. `あなうたてや藤六にこそいましけれ
  6. `さらば歌詠み給へ
  7. `と云ひければ
  8. `昔より阿弥陀仏の誓にて煮ゆるものをばすくふとぞしる
  9. `とこそ詠みたりけれ